|本の詳細
[処分取消事例]にみる 重加算税の法令解釈と事実認定
納税者の主張を認めた判決・裁決を元国税審判官が徹底解説!
所得・相続・法人・消費の各税目の判例・裁決事例を多数収録!
★税理士・弁護士は当事者として必読です。
A5判・608頁(H210×W148 900g)並製
◆定価:5,500円(税込)
◆ISBN978-4-909090-50-8 C2034
◆2020年11月28日発売
◆Cover Design 有吉 一男
◎著者プロフィール
梅本 淳久(うめもと あつひさ)
デロイト トーマツ税理士法人 タックス コントラバーシーチーム マネジャー/公認会計士・米国公認会計士・司法書士試験合格
税理士法人トーマツ(現 デロイト トーマツ税理士法人)に入社後、税務申告業務、国際税務コンサルティング業務を経験し、現在は、審査請求・相談・教育研修などの業務に従事している。民間専門家として、国税審判官(特定任期付職員)に登用され、所得税・法人税・相続税の各税目の重加算税事件の調査・審理を行った経験を有する。
著書に『【法律・政省令並記】逐条解説 外国子会社合算税制』、『【法律・政省令並記】逐条解説 過大支払利子税制』、『事例と条文で読み解く 税務のための 民法講義』(以上、ロギカ書房)、『詳解 タックス・ヘイブン対策税制』(清文社・共著)、『国際課税・係争のリスク管理と解決策』(中央経済社・共著)、『第10版 Q&A 事業承継をめぐる非上場株式の評価と相続対策』(清文社・共著)、税務専門誌への寄稿記事に「通達・Q&Aの要点を一挙に押さえる 令和元年度 外国子会社合算税制の改正詳解」税務弘報67巻10号(中央経済社)、「外国法を準拠法とする契約に係る税務上の取扱い[1]~[3]」月刊国際税務38巻12号~39巻2号(国際税務研究会)、「疑問相談 国税通則法 国税不服審判所の審査体制と裁決事例の先例性」国税速報第6555号(大蔵財務協会)などがある。
《執筆協力者紹介》
稲見 誠一(いなみ せいいち)
デロイト トーマツ税理士法人 タックス コントラバーシーチーム シニアアドバイザー/税理士
サンワ東京丸の内事務所(現 有限責任監査法人トーマツ)に入社後、勝島敏明税理士事務所(現 デロイト トーマツ税理士法人)に転籍し、パートナーとして、事業承継部門長、テクニカルセンター長、審理室長、東京事務所長、副理事長を歴任し、2016年12月1日よりテクニカルセンター(現 タックス コントラバーシーチーム)のシニアアドバイザーとして、税務訴訟研究を通じて教育研修業務に従事している。また、外部委員として、東京都債権処理審査会委員、事業再生研究機構・税務問題委員会副委員長に就任している。
主な著書に、『Q&A 事業承継をめぐる非上場株式の評価と相続税対策』(清文社・共著)、『制度別逐条解説 企業組織再編の税務』(清文社・共著)、『詳解 連結納税Q&A』(清文社・共著)、『組織再編における株主課税の実務Q&A』(中央経済社・共著)、『「純資産の部」の会計と税務』(清文社・共著)、『私的整理ガイドラインの実務』(金融財政事情研究会・共著)、『ケース別にわかる企業再生の税務』(中央経済社・共著)、『実務詳解 組織再編・資本取引の税務Q&A』(中央経済社・共著)、『グループ法人税制・連結納税制度における組織再編の税務詳解』(清文社・共著)がある。
◎内容
「本判決及び平成7年判決は、過度に厳格な解釈をすることにより重加算税制度の趣旨に反する結果となることを避けるため、文理に完全には反しない限度で国税通則法68条1項の合目的的解釈をしたものと解されるが、他方、その趣旨とするところを超えて重加算税の賦課対象が安易に拡大されることは避けなければならないであろう。」(川神裕「判解」最判解民事篇平成6年度607頁(1997))。
最高裁平成7年4月28日判決(平成7年判決)が、「納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の右賦課要件が満たされる」との解釈を示して以降、積極的な隠ぺい仮装行為がない場合であっても、課税庁が「特段の行動」を認定して、重加算税を課す事例が増加しています。また、伝統的な論点として、第三者によって隠ぺい仮装行為が行われた場合に、納税者に対して重加算税を課す事例も依然として見受けられます。
もっとも、国税不服審判所ホームページ(http://www.kfs.go.jp)の「公表裁決事例要旨(国税通則法関係)」によれば、「隠ぺい、仮装の事実等を認めた事例」が59件、「隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例」が59件となっています(2020年10月1日現在)。また、「請求人以外の行為」は17件(平成23年7月6日裁決を含めると、18件)あり、同裁決及び令和元年10月4日裁決を除き、全て重加算税の賦課決定処分を適法とするものですが(同日現在)、第三者の行為を納税者の行為と同視することはできないなどとして、重加算税の賦課決定処分が取り消された裁判例も存在します。
これは、冒頭の「その趣旨とするところを超えて重加算税の賦課対象が安易に拡大されることは避けなければならないであろう。」というメッセージに反して、広く「特段の行動」が認定され、重加算税が課されたところを是正した結果ということもでき、また、第三者の隠ぺい仮装行為を理由とする重加算税の賦課決定処分の適法性の判断の難しさにあるともいえます。
本書では、調査、不服申立て、訴訟の各段階において、重加算の賦課要件に関して、正当な権利を主張するための一助となることを願って、重加算税の取消判決・裁決(納税者が勝った事例)を整理し、詳細な解説を加えました。また、類似の事案で、請求を棄却した裁決・判決(納税者が負けた事例)を併せて解説したほか、課税庁側の視点も適宜付記しました。
なお、本書の意見にわたる部分は筆者の私見であり、デロイト トーマツ税理士法人の公式見解ではないことを申し添えます。
◎目次
第1部 重加算税の賦課要件
第2部 取消判決・裁決
■事例1 申告手続の委任を受けた代理人が、仮装行為により納税額を零とする申告をする一方、納税者に対しては納税額が発生しているとして、納税額を納税者から受領したことについて、納税者が、故意に、所得の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装したものとはいえないとして、重加算税を賦課することはできないとされた事例
(大阪高裁平成3年4月24日判決・TAINS Z183-6701)
■事例2 法人の経理部長が代表者の意図するところに合わせて上場株式の売付を代表者名義の口座で行ったように移し替えた上、当該株式の売却日以降にその取得資金を代表者に対する貸付金として経理したことについて、代表者に、法人に帰属するものをことさら代表者個人に帰属するものとして仮装する意図ないし認識があったとするには無理があるとして、重加算税の賦課決定処分が取り消された事例
(東京高裁平成5年3月24日判決・TAINS Z194-7108)
■事例3 土地建物の売買価額を1億7,000万円とする当初の契約は白紙撤回されたものであり、納税者は当該土地建物の売買代金を、代替物件の納税者なりの評価額である9,000万円と認識していたと認められるから、税金分として現金で取得した部分を除き、事実の隠ぺい・仮装をしたことには該当しないとして重加算税の賦課決定処分の一部が取り消された事例
(東京高裁平成8年5月13日判決・TAINS Z216-7726)
■事例4 納税者が3区画の土地を譲渡したにもかかわらず、1区画分のみを確定申告したことについて、取引及び登記等に事実の隠ぺい又は仮装は認められず、調査時にも事実の把握を困難にさせるような特段の行為は認められないなどとして、重加算税の賦課要件は満たさないとされた事例
(平成10年5月28日裁決・審判所HP)
事例5 他社に賃貸中の建物で、自己の居住用の一部として従前どおり使用していたものが居住用財産の譲渡所得の特例の適用対象となる「居住用家屋」の範囲に含まれないにもかかわらず、納税者はこれに含まれるものと認識し、その認識に基づき売買契約書に当該建物の使用状況を記載したことのみをもって、隠ぺい又は仮装に当たるということはできないとされた事例
(平成10年9月30日裁決・審判所HP)
■事例6 法人が木材の輸入取引において仕入れに計上した取引額の一部に、当事業年度以外の事業年度の損金の額に算入すべきものがあるが、当該金額については、架空、金額の水増し又は重複計上などによって過大に計上したものとは認められず、損金算入時期の誤りによるものと認められるから、隠ぺい仮装したことには当たらないとされた事例
(平成12年1月31日裁決・審判所HP)
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●奥付情報
印刷・製本 亜細亜印刷株式会社
初版発行 2020年12月15日