|本の詳細
2025年病院経営 赤字経営体質からの脱却
このままではつぶれる?
診療報酬改定、高度急性期医療、地域包括医療、医療連携、働き方改革・・
今、何をすべきか
井上 貴裕・松谷 厚聖 著
A5判・440頁(H210×W148×D23 670g)並製
◆定価:本体価格 5,000円+税
◆ISBN978-4-911064-36-8 2047
◆2025年12月15日発売
◆デザイン:有吉一男
【著者略歴】
〇井上 貴裕(いのうえ たかひろ)
千葉大学医学部附属病院 副病院長・病院経営管理学研究センター長・特任教授
ちば医経塾塾長
岡山大学病院 病院長補佐・経営戦略支援部長・岡山大学客員教授
長崎大学客員教授・長崎大学病院顧問
奈良県立医科大学招聘教授
東邦大学医学部医学科客員教授
自治医科大学客員教授
独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)顧問
独立行政法人国立病院機構経営改善推進委員会委員
労働者健康安全機構 労災病院 経営アドバイザリーボード
東京都立病院機構 理事長補佐
市立札幌病院経営アドバイザー
などを併任している。
東京医科歯科大学大学院にて医学博士及び医療政策学修士
上智大学大学院経済学研究科及び明治大学大学院経営学研究科にて経営学修士を修得。
〇松谷 厚聖(まつや こうせい)
青森県病院局運営部医事第一課 上席医事専門官
青森県職員
1992年4月新採用となり、青森県立中央病院医事課配属。
その後、青森県議会事務局、消防学校総務課、東青地域県民局地域連携部管理課を経て、
2010年4月から青森県病院局運営部医事第一課に再配属
2018年経営企画室に異動後、翌年から再び医事第一課に戻り、現職
病院通算25年目
【内容】
2024年度の決算が出揃い、過去最悪の状況が明らかとなった。国立大学病院長会議によると2024年度は経常損益がマイナス285 億円であり、1病院当たり約7 億円の赤字に陥った。また、国立病院機構の経常損失がマイナス375億円で過去最低の結果となった。物価高騰などの煽りを受けたことが大きく影響しているが、全国的に患者数がコロナ前に戻らないケースが多いのも事実である。もちろん、これらの業績は2024年度の診療報酬改定の影響も色濃く受けているだろう。
本書が出版される2025年は団塊の世代が全て75歳以上になるタイミングであり、地域医療構想のターゲットイヤーとして位置付けられてきた。しかしながら、新型コロナウイルス感染症などもあり、地域医療構想が理想通りに進んだとは必ずしも言えないだろう。そんな中で、2040年に向けて新たな地域医療構想が始まろうとしており、そこでは医療機関機能が追加されることとなり、どんな病院なのかが問われる時代が本格的に到来することになる。
病院機能の選択は待ったなしであり、病床稼働率にも影響を及ぼす。自院の機能とミスマッチの病棟を有していたとしても埋まらないし、重症度、医療・看護必要度などの施設基準も満たせないだろう。仮に地域で不足する機能を他院に先んじて積極的に担うのだとすれば、先行者が有利に立つ先発優位性が働きやすい医療提供において、持続的な競争優位性を構築することにつながることだろう。病院機能の選択は経済性とも密接に関わるわけであり、自院がやりたいこと、やるべきことをバランスよく考えた戦略の策定が求められている。
私たちが常に意識すべきなのは、病院収入には保険料や税金といった多額の社会保障費が投入されていることである。限りある財源を有効に活用することは、私たち病院経営に携わる者への責務である。どんなに苦しくともあるべき姿を失ってはいけないし、地域や職員に全うな説明責任を果たす役割が課されている。そのためにも、医療政策と診療報酬の動向を踏まえ、性善説に基づいた健全な病院経営を執り行うことが求められている。
病院の財務状況は極めて厳しく、これからもしばらくは暗黒の時代が続く覚悟が必要だろう。未来を楽観視することは難しいと感じる。しかしながら、医療がなければ、地域は成り立たない。人が幸せに生きるために医療は不可欠である。だからこそ、機能分化と連携を支柱に据えた効率的で効果的な地域医療提供体制の構築が必要であり、その中で各病院が存続し成長するためには、医療政策と診療報酬の動向を無視することはできない。
本書が、地域医療提供体制の持続可能な発展と病院経営の未来に向けた課題解決の一助となることを願っています。
【目次】
はじめに
■第1 章 2023 年を踏まえた医療政策と診療報酬の論点
1―1 「このままではつぶれる」急性期病院の財務状況
1―2 専門性を大切に、でも“専門に逃げない”
1―3 受療率低下と高齢者医療をどう考えるか
1―4 戻らない患者数 減少した疾患と逆に増える疾患は
1―5 底打つも苦戦続く急性期患者数 柔軟な発想を
1―6 専門病院と総合病院 どちらに優位性があるのか?
1―7 “物価高騰倒産”の危機に病院はどう抗う
1―8 職員採用が病院の存続・成長を左右する
1―9 緊急事態の国公立・公的病院 随意契約を選択肢に
■第2 章 2024年度診療報酬改定の概要と影響
2―1 2024年度診療報酬改定の背景
2―2 2024年度診療報酬改定の概要
2―3 同時改定を踏まえた高齢者救急の地域デザイン(1)
2―4 同時改定を踏まえた高齢者救急の地域デザイン(2)
2―5 2024年度改定における医療DX
2―6 用途を限定した改定率
2―7 DPC 制度改定の概要
2―8 答申書附帯意見と今後
■第3 章 これからの高度急性期医療をどう考えるか
3―1 「大学病院ですら患者元に戻らず」 取捨選択し、どう動くか
3―2 困窮する財務状況の特定機能病院をどう位置付けるか
3―3 コロナ禍でも健闘したがん専門病院、そしてこれからの未来は
3―4 緊急事態の大学病院 その存在意義は?
3―5 「DPC 特定病院群」 終わりのはじまり
3―6 「救急医療係数」から「救急補正係数」への移行、その実態は
3―7 2024年度診療報酬改定を踏まえ今後のICU のあり方
3―8 ロボット手術の実態を踏まえ導入をどう考えるか
3―9 急性期充実・総合入院体制加算の実態を深掘り
■第4 章 急性期から慢性期機能の実態と包括期機能への展開
4―1 急性期一般入院料1届出病院の実態に迫る
4―2 DPC 退出ルールが意味すること
4―3 先行病院から考察する地域包括医療病棟の選択
4―4 入院患者の高齢化が進む中、ADL 低下をどう防ぐか
4―5 価値に基づくリハビリーテーションがADL を維持・向上させる
4―6 回復期が「地域包括期」になった後の世界を展望する
4―7 地域包括医療病棟の看護必要度を充足するために
4―8 2024年度診療報酬改定を踏まえた地域包括ケア病棟のこれから
4―9 地域包括医療病棟と地域包括ケア病棟の決定的な違い
4―10 高齢者救急と救急医療管理加算、議論の着地点は?
4―11 療養病棟の岐路 どの道を進むか
4―12 プロダクト・ライフサイクルから考えるチーム医療のこれから
4―13 “終わりのはじまり” DPC/PDPS における定義副傷病
■第5 章 医療連携をどのように進化させるか
5―1 単に顔の見える連携だけで紹介患者は増えるのか?
5―2 入院診療単価を上げた地域包括医療病棟への転換ケースとは
5―3 “転院先なく”言い訳に在院日数の長期化を許すか
5―4 下り搬送を有効に機能させるために必要なこと
5―5 “本気で救急医療” 「救急救命士」に白羽の矢を
5―6 2023年度も入院患者が戻らず苦戦が続く中で外来をどう考えるか…
5―7 地域医療支援病院を目指さないという戦略
■第6 章 働き方改革と診療報酬
6―1 医療機関における働き方改革の源流
6―2 プレ働き方改革の時代
6―3 働き方改革から現在まで
6―4 2024年度改定と医療機関に求められる働き方改革の実践
6―5 宿日直と2024 年度改定
6―6 タスクシフトと2024年度改定
◎奥付情報
印刷・製本 亜細亜印刷株式会社
初版発行 2025年12月31日
